ほら、風見鶏から春の音。

利き手の指を失い、上手く字が書けない貴方から届く生存報告
時候の挨拶、近況報告の代わりに
紙のすみっこで息を潜めるいくつかの絵
その正体がわかったり、わからなかったりするから
その度にわたしをうれしくさせたり、じりじりさせる。


「ちょっくら旅に出てくらァ」

旅に行く。
少し前まで
夜の中で生きてきた彼には出来ないことで
彼のことを近くで見守っていたわたしは
いいじゃないですか!館のことはわたしにお任せください!
と、鼻息荒く送り出した。

限られた命で
彼がそうしたいと言うのなら
どうして引き止めることが出来ようか。

主のいない館を今日も掃除する。
隅から隅まで、きっちりと。
縁側、寝室、水周り、玄関、なんなら敷地外の道路まで。
一通りやりきって、ふう。と一息ついた。
達成感に空を仰いでいると、門のところに人の気配。
駆け寄ると、大きな鞄を持った男の人が立っていた。

「こんにちはー。郵便です」

「あっ、はい。」

「えーと……不死川実弥様からの手紙が一通ですね」

渡された封筒には、“不死川実弥”と確かに書いてあった。
この屋敷の主が、この屋敷宛に手紙を寄越しているのには
少しばかり理由がある。


忘れられない一戦。
朝日が昇り、永き戦いに幕が降り、わたしの役目もすっぱり終わり。
だと思った、のに。
すごくすごく、ものすごく偉い御方から(すごすぎて名前を口に出すのも憚られる)

「実弥が意識を取り戻すまで、彼の館の手入れをお願いしたいんだ」

と、直々にお願いされ
思考回路機能停止
身体機能複雑骨折

それでも
答えもこころも決まってた。
柱として支えてくれた人を
今度はわたしが支える番だ。


館の主がここに戻ってきたのは、あの決戦から数ヶ月後
何事も無かったかのように、ひょこっと現れたから
わたしの心臓がぴょんと跳ねて、箒が手から滑り落ちた。

「かっ、風柱様!?ご容態はもうよろしいので……!?」

「あァ、世話かけたな。ありがとよォ」

床に横たわっている箒を手に取り、わたしにぽんと渡してくれた。
見たことないような笑顔で。

「あ!?、いえっ…そんな……身に余るお言葉……!」

人間、色んなことが一気に起こると身体のあちこちがガタガタ震える
というのを
生まれて初めて知った。

「俺が不在の間、お前がこの屋敷を手入れしてくれたんだってなァ」

「ひあっ!?あっ、はいっ!何か至らぬ点がありましたか!?」

「いや……」

風柱様の言葉が途切れ
あっそうか。と、脳が急に冷静さを取り戻した。
館の主が戻ってきたから
わたしはお役御免、暇を出され、つまりは無職。
ここにいる意味などないのだ。

「ちょっと頼みてェことがある」

「はい。わたしでよければ、なんなりと」


---


「……時が経つの、早くない?」

どこからか届いた風柱様の手紙
封筒に書かれたぎこちない氏名
東風がするりと墨の上をなぞり
早く開けてとせがんでいるよう

掃除用具を片付け、陽の当たる縁側で開封の儀。
ぱらりと出てきたのは、一枚の絵葉書と小さめの便箋。
便箋には、いつものように絵がいくつか描かれていた。

「……ふふっ」

こぼれたのは、笑顔。


もうすぐ春ですね


(元気なら、それで。)


【超☆久々更新
推しがいると筆が走る!笑
サネミチアかわいいねえ
屋敷にいるのは隠(女)
月一とかで手紙よこすサネミチアかわいいねえ
夢小説はいいぞお
ゆめみていこ】